「タウリス島のイフィゲーニエ」とは?

イフィゲーニエ(ギリシャ名:イーピゲネイア)は、ギリシャ神話にあらわれるミケーネの王女。
キャラ解説にもあるとおり、戦争へ向かう父アガメムノンによって女神ディアーナ(ギリシャ名:アルテミス)への生贄に捧げられ、命を落とす悲劇のヒロインである。
娘の犠牲を恨んだ母クリタイムネストラは、愛人と謀ってアガメムノンを殺害。さらに弟オレストが妹エレクトラに促がされ、母を殺し父の仇を討つ。しかしオレストは、死にゆく母がけしかけた復讐の女神たちに追われ、正気を失う̶̶。長女の死をきっかけに、呪われた一家が血で血を洗う惨劇を繰り広げるのである。
 
彼らを題材にしたギリシャ悲劇は、アイスキュロスの「オレステイア」3部作が有名だが、ちょっと変わった後日談としてエウリピデスが書いたのが「タウリケーのイーピゲネイア」。死んだと思われていたイフィゲーニエが実は生きており、タウリス島でオレストと再会するという物語である。
タウリスの神殿の巫女となっていたイフィゲーニエは、はじめは生き別れの弟とは知らず、侵入者オレストを生贄としてあわや殺しかける。だが真実が明らかになると、神殿に祀られていたディアーナの神像をちょろまかし、二人仲良くスタコラサッサとギリシャへ逃げ帰る、という「これ…悲劇?」なストーリー。
まあ恩を仇で返されたタウリス王トーアスにとっては、まったくひどい悲劇だろうが……。
  
古代ギリシャの時代から下ること約2300 年。ワイマールの英才・ゲーテは、エウリピデスのこの悲劇をもとに「タウリス島のイフィゲーニエ」を書き上げた。もともと国境なきヒューマニズムの持ち主であり、加えて初めてのイタリア旅行でテンションアゲアゲだったゲーテは、争いと裏切りに満ちた物語を、愛と純真で克服する、人間讃歌へと書き変えたのだった。

【文:小野紗也香[『IPHIGENIE イフィゲーニエ』ドラマトゥルギー担当]】

LINEで送る
Pocket