『IPHIGENIE イフィゲーニエ』 登場人物紹介! Part.2

【文・イラスト:小野紗也香[『IPHIGENIE イフィゲーニエ』ドラマトゥルギー担当]】

復讐の悪女 クリテムネストラ
31_Klytaemnestra_550ギリシャ悲劇・難読人名ランキング、ぶっちぎりトップ。一番ひどい表記は「クリュタイムネーストラー」。字数もったいないので通称ムネムネ。
絶世の美女ヘレーナの姉で、不倫相手と謀って夫を殺し、娘をいびり、ついには息子に殺され復讐の呪いを残して死ぬという、妹に劣らぬお騒がせ悪女。だが相思相愛だった最初の夫タンタロスを、横恋慕したアガメムノンに騙し討ちにされ、無理やり再婚させられた彼女は、新しい夫を恨みこそすれ、愛してなどいなかったに違いない。しかも夫は、愛娘イフィゲーニエ(一説には最初の夫との子)をまたもや騙しておびきだし、神への生贄として殺すわ、何年も戦争にかまけるわ、やっと帰ったと思ったら敗戦国トロイアから新しい愛人を連れてくる始末。まあ殺したくもなりますわな。
エレクトラやオレストを冷遇したのも、お腹を痛めた我が子とはいえ、むかつくダンナの血が半分流れているかと思うと、嫌悪がまさったのかも。夫を憎む女の我が子に対するアンビバレントな感情については、エウリピデス作『メディア』なんかも参考にドーゾ。ムネムネ、メディアに共通して、男尊女卑な古代ギリシャ以前にあった、母系制文化が背景にあると思われマス。

 
 


タンタロスの呪いに翻弄される間男 エギスト
31_Aegisth_550ムネムネの不倫相手で、彼女と共謀してアガメムノンを殺害。のちにエレクトラに手引きされたオレストによって、ムネムネともども殺される。
実はこのエギスト、アガメムノンとは並々ならぬ因縁が。本作劇中でイフィゲーニエが、一族の先祖アトレウス&ティエスト兄弟の凄惨な謀殺合戦を物語るが、兄への復讐を祈ったティエストが、神託に従い実の娘をレイプして生ませた息子こそ、エギストなのである。娘は子を宿したままアトレウスに嫁いだため、エギストは伯父の子として育てられ、ティエストを殺す任務を課せられる。しかしやがて出生の真実が明らかになると、エギストはアトレウスを殺し、実の父に王位への道を開く。…………ってこの説明、意味わかる・笑?
要するに、エギストは、父の復讐のために父と姉の子として生まれ、育ての親アトレウス、さらにはその息子のアガメムノンをも、殺すことになってしまったわけ。ちょっと壮絶すぎるでしょ…………。本作では脇役のエギストもまた、タンタロス一族の呪いに翻弄された一人なのです。

 

 
 


黄金仮面の最低男 アガメムノン
31_Agamemnon_550ミケーネ王として全ギリシャを束ねる、顔も態度もでかいオッサン。従兄弟の妻ムネムネに横恋慕し、旦那を騙して戦死させて、嫁を奪うというゲスの極みである。
スパルタ王の弟が、若くて美人の嫁さん(ヘレナ)をトロイアの王子に寝取られたというので、落とし前をつけに出征。ところがレクリエーション・タイムに狩りをして遊んださい、浮かれすぎて「どや、わし上手いやろ!狩りの女神ディアーナにも負けへんで!」と口をすべらせ、ディアーナ様激怒。女神は風を止め、ギリシャ軍の出航を妨害した。「船出したかったら娘よこさんかい」との脅迫神託が下り、オッサンはやむなく、長女イフィゲーニエを女神への生贄に捧げる。ギリシャ軍のためとは言いつつ、父の失言の尻拭いで死ねという理不尽な要求を、イフィゲーニエは王女の義務として受け入れるが、前夫に引き続き、目の前で娘を殺されたムネムネの恨みたるや……。
その後10年間もダラダラ戦争を続けた末、ようやく勝利したオッサンは、戦利品としてトロイア王女カサンドラを連れて帰還したところを、ムネムネとその愛人に殺される。まァこれだけ見ると人間のカスなので死んで当然…………な命なんてないよねっ!ボーリョク、ダメ絶対☆(ちなみに『アウリスのイーピゲネイア』では、一応、娘を生贄に捧げることに葛藤しております。また、いわゆる「アガメムノンの黄金のマスク」は、現在では彼の活動期より古いものであるといわれています。)
 
 


復讐に燃える暗鬱薄幸系アイドル エレクトラ
31_Elektra_550イフィゲーニエの妹で、オレストの姉。王女ながら、前王アガメムノンの娘として、実母と不倫相手が支配する王宮では冷遇される。オレストはストロフィウス王のもとへ逃がしたものの、自身はミケーネの王宮で、砂を噛む思いで虐待に耐え、復讐の時を待っていた。その不憫な立場が同情を誘うのか、ソフォクレス、エウリピデスではタイトルロール、アイスキュロスのオレステス三部作でも重要な役割を担い、心理学用語にもなった人気者。
身分を隠してミケーネに戻ってきたオレストに、父の敵討ちを迫り、母と愛人に対して積年の恨みを果たした。「きみ死にたもうことなかれ」と祈り続けたすえに、弟とは感動の再会を迎えたけれども、「刃をにぎらせて人を殺せと」教えちゃったんだね~。
そんな彼女、これも因果応報なのか、ソフォクレス版は血塗られた不穏な終り方をし、エウリピデス版でも、王女としての地位を回復できないばかりか、せっかく再会を果たしたオレストと今生の別れをせねばならないなど、明るい未来が待っていそうな気配が一ミリもない。唯一、大団円で終るアイスキュロスでだけは、ピュラデスと恋に落ちて結婚することになるが、これもオレストとピュラデスの相互依存ぐあいを思うと…………相当ストレスたまる結婚生活になりそうで。どこまでも幸薄いエレクトラさんなのでした。
 
 

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